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egg

白く細長い指が、白く乾いた殻に触れる。
ざらざらした表面をなぞりながら、きれいに整えられた爪が音をたてる。
一個、また一個と温かい曲線を描いた命が心地よい音をたてて、割れていく。

女はその半透明なものと、「オレンジ」色の突き出た丸いものと分けている。
女の細い指の間から糸を垂れ、粘膜がぬるりと滑り落ちていくのを眺めながら、僕はソファに深く腰掛け、煎れたての濃い珈琲を飲もうとしている。

窓の外から誰かと誰かがひそひそと話している。それはもっと遠くで喧嘩しているような声でもあり、すぐそこにいて今日の天気の話や、政治について話しているような声でもあった。

女が「オレンジ」色の丸い粘膜を口に含み、僕の隣に座った。
今日は何の洋菓子を作るのかと尋ねようとしたとき、女が僕のひざをまたぎ、ぎゅっと僕を押し倒した。頬を膨らめたその顔は恥にまみれ、目線を交えようとしなかった。長い黒髪が僕の視界を覆い、厚く濡れた唇が温かく包み込む。
ブーンと低いうなり声をあげる冷蔵庫が部屋中に充満していた。それに混じって女の唾液を吸いつく音が辺りに響く。
女は口をわずかに開き口に含んでいた「オレンジ」のかたまりを僕に自慢気に見せると長い舌で丁寧に唇に滑り込ませた。
女はまだ半透明の白い液がついた唇を舐めながら、割ってはだめよ、と言った。
ぬるぬるとした薄い曲線の膜がはっきりと唾液を包んでいるのがわかる。
脳神経が刺激され、固い歯にそれが当たるのを防ごうと僕の舌が踊る。
その度に溢れる唾液と一緒に飲み込んでしまうのを恐れ手前の喉を閉めていたら、呼吸をするのを忘れていた。慌てて鼻息が荒くなり、自分が極限に興奮していることがわかる。
ニヤニヤした女の視線が僕を更に恥にまみれさせる。
次は私に頂戴よ、と女の口が僕の視線の下にくる。

ひそひそと話していた声はもう消えていた。代わりに大型バイクのエンジン音が遠くからゆっくりと近づいて来る。夜の静寂にその音は一筋の光のように闇を切り裂いていく。

僕の舌は薄い粘膜に保たれた丸いものを追いかけるのに必死で、そのエンジン音が虫の羽音にしか聞こえない。だんだんと脳が痺れてくる。
女のぽっかり開いた真っ赤な口が僕の舌に吸いつく。
舌の先を上手に丸め、女は「オレンジ」のかたまりを受け取った。
もう一回、と人差し指を弱々しくあげ、女がもう一度上になる。
まだぬめりを帯びている口内では、何かを求め彷徨っている。
そこにもう一度「オレンジ」のかたまりがやってきた。
薄い粘膜がしっかりとその形を主張し保護している。
試しに僕はそっとその薄い壁に歯を立てた。
プっという音をたてて中から濃厚な液体があふれると同時に甘い香りが口の中に広がる。
女は僕の服をゆっくりと脱がせ、粘膜で麻痺した唇を胸に押し付ける。
熱い舌が円を描く度に淡い意識が遠のいて行くが、口の中で爆発した濃い匂いを放つものが神経を撫でるので興奮状態は覚めない。
女の唇が徐々に上へのぼってくる。唇に到達すると、僕は口の中にあった「オレンジ」の塊を女の口に押し込んだ。
女の顔が少し歪み、「オレンジ」の液体が真っ赤なくちびるからこぼれ、僕の胸に「オレンジ」の斑点を作った。

 

それは僕の胸に落ちた、彼女から垂れた「オレンジ」の血液であり、それを見て女は寂しく笑った。