2017-03-04から1日間の記事一覧

egg

白く細長い指が、白く乾いた殻に触れる。ざらざらした表面をなぞりながら、きれいに整えられた爪が音をたてる。一個、また一個と温かい曲線を描いた命が心地よい音をたてて、割れていく。 女はその半透明なものと、「オレンジ」色の突き出た丸いものと分けて…

テレサ(cello)part3

その週末には彼から電話があった。どうして私の電話番号が分かったんだろうなんて思わなかった。不思議に年を感じさせるその声が受話器から聞こえてきた時には、本当に心臓が爆発するぐらいにおどろいたが、その後に続くごめん、ごめんと情けない声で言い続…

テレサ(cello)part2

チェロを始めたのは、その男と会う6年ぐらい前からだった。私は孤独だったが、その大きな存在感のあるチェロを抱きしめていると、不思議と心が安らいだ。まるでそれは男にあつく抱きしめられている時のようで、初めて手を触れた時、私の胸を熱くさせ、不思…

テレサ(Cello) part1

2009.04.26 Sunday 01:20 また、夏がやってきたのだ。 早いものでここに住むようになってから今年でもう十三回目の夏を迎える。そういえば、あの時も同じように、こんな暑い日に遠い空で浮かぶ白い雲をぼんやりと眺めていた。 あの時と違うのは、私が住んで…

テレサ(toilet)

2009.04.26私は今、ある公衆トイレの個室でこれを書いている。 どうしてこんなところにいるのか、どうしてここでこれを書こうとしているのか、自分でもよくわからない。しかし、ここにいるということに何かの意味を持つことはなんとなく理解している。意識で…

瘡蓋

教室の窓に貼られたポスターが少し傾いている。誰かが一度貼り直したようなセロハンテープの跡が上部に残っている。そこには大きく「富士山に登ろう」と書かれてあって、富士山を、ではないのかと考えていたら、またあそこの古傷がかゆくなってきた。 昨日、…

其の時の夜明け

さっきから私はこの町の雲行きが気になって仕方がない。 ギュルギュルと流れていく雲はさまざまな形に変化しながら私の視界の端から端を走る。私の届かぬ世界では風は直線に流れていくと聞いた。何処の角を曲がるわけでもなく、ただ真っ直ぐに。 うねる太陽…